アトピー性皮膚炎(その2)・・・治療について

湿疹に対する治療(その1:外用ステロイド)

和尚:湿疹の治療について具体的に教えてください。

院長:まずは皮膚の症状の程度に応じた適切な強さのステロイドの軟膏を使用していきます。このあたりのさじ加減は皮膚科専門医の腕の見せ所であり、大まかなガイドラインは日本皮膚科学会でも公開されています。

和尚:ステロイドの塗り薬というと何か副作用のイメージが先行するのですが、塗って大丈夫なのでしょうか?

院長:どうも15年以上前に放送された報道番組の影響が今もって残っているようですね。あえて、逆説的な言い方をしますが、ステロイド外用薬ほど安くて、効果があり、副作用の少ない薬もないと我々は考えます。

和尚:ほほう。そうなのですか?

院長:しかし、あたりまえのことですが、およそ全ての薬というのは望ましい作用と望ましくない副作用をもっているものであり、使用方法を間違うと副作用がでてしまいます。物事には陰陽の二面性があるというのは和尚もよく言っていませんでしたか?

和尚:そうでしたね。

院長:私はよく切れる刃物に例えるのですが、よく切れる刃物は使い方次第では体を傷つけることになります。それと同じことが言えるとおもいます。基本的な副作用としては長期連用が続く場合に皮膚の萎縮や多毛が出現します。このようなことがないように、我々、皮膚科専門医は皮膚の状態をみながらステロイド外用薬の強さを状態と場所に応じて、調節をしていきます。ただ、あまりこのようなことは言いたくないのですが、実際に私がみたことのあるステロイドの副作用は、皮膚科専門医以外が外用薬を処方されているケースがほとんどでした。

和尚:ほほー、では、皮膚科医師の指示通り外用していれば大丈夫ということですか?

院長:残念ながら、薬に対する反応は個人により異なる場合があるので、副作用がでやすい患者さんもおられます。しかし、根本的な問題の一つとして、外用薬は内服薬に比べて、軽くみられがちです。ところが、外用薬であっても医師が処方箋を書く外用薬はきっちりとした作用がありますので、間違った使用法をすると副作用がでたり、期待した効果が出ないといったことが起こります。

和尚:たかが塗り薬ではないということですね。

院長:そうです。今や、外用薬といえども、ナノテクを含む高度のテクノロジーが用いられる時代になりました。

和尚:ステロイドと聞くと、骨がもろくなるとかも聞いたことがあるのですが?

院長:それはステロイドの内服薬にみられる副作用ですね。通常の外用薬を指示通り使っていれば起こらない副作用です。ステロイドの内服薬と外用薬の副作用はよく混同されます。基本的には医師の指示通りに使用した場合には外用薬については皮膚以外の副作用は起こる可能性は非常に少ないと考えてください。

湿疹に対する治療(その2:ステロイド以外の外用薬)

和尚:ステロイド以外塗り薬もあると聞いたのですが?

院長:色々ありますが、大ざっぱに3つに分けられます。ひとつは補助的な外用薬、二つ目は非ステロイド抗炎症外用薬、3つ目は免疫抑制薬の外用薬です。

和尚:一つずつお願いします。

院長:一つ目の補助薬ですが、保湿剤的な側面や皮膚の保護作用をもつ古典的な薬剤です。アズノール軟膏や亜鉛華軟膏がこのような目的で使用されます。

和尚:ちょっと試しに見せてください。アズノール軟膏はきれいな青色で、ビジュアル系の軟膏ですねえ。亜鉛華軟膏はネバネバですね。少し使いにくいかも・・・。

院長:亜鉛華軟膏はひどい湿疹の場合に、ガーゼにのばして湿布のように使います。少し面倒ですが、治りにくい湿疹などの場合にはよく効きます。

和尚:そちらにも一つありますね。

院長:これはタール剤と呼ばれているものです。

和尚:タールと聞くとタバコのイメージで体に悪そうですが・・・。

院長:ステロイド外用剤がまだあまりなかった頃には、何種類かのタール剤がよく使われていたと大先輩から聞きました。しかし、ステロイド外用剤に比較して効果が弱いことや発ガン性などが指摘され、次第に姿を消していったそうです。

和尚:ちょっと見せてください。

院長:現在も残っているのは脱脂大豆乾留タールで、これは発ガン性がないので今も使用されています。コーヒーかピーナッツバターのような臭いが特徴的です。

和尚:それは少しほめすぎな気がしますが・・・。焦げたような臭いに感じます。

院長:ステロイドのような副作用もないので、強いステロイドが使用できない顔面にはよいのですが、その臭いのために実際には使用するのが難しい軟膏なのです。でも効果があるので、現在まで生き残っている良い外用薬です。

和尚:ふたつめの非ステロイド抗炎症外用薬についてお願いします。

院長:私はこの種の外用薬はほとんど処方しません。炎症を抑える効果は弱い上に、接触皮膚炎、つまり、かぶれを起こすことがあるからです。

和尚:塗り薬でかぶれるのですか?!

院長:そうです。そこが盲点なのです。多くの人は自分が使っている薬でかぶれているとは思わないのです。もちろん、医薬品は発売されるまでに厳格な審査をうけるのですが、それでも、ある一定の確率で副作用が起こります。非ステロイド抗炎症外用薬の場合、非ステロイドであるというだけで副作用がないイメージを持つ人がいるため、さらに盲点になるのです。

和尚:多いのですか?

院長:ステロイドの外用薬よりも頻度は多いと思います。効果があまり期待できない上に副作用の可能性があるので私はあまり使いません。

和尚:次に免疫抑制剤の外用薬についてお願いします。

院長:日本で使用されているのはタクロリムス外用薬、商品名はプロトピック軟膏です。

和尚:免疫抑制剤と聞くと何か怖い感じがしますが・・。

院長:内服するのと外用ではかなり事情が異なりますので、イメージしているのは内服の副作用と思います。副作用のことは少し後でお話するとしまして、まずはどんな薬かということから始めましょう。タクロリムスは我が国で、発見・開発された薬で、臓器移植の拒否反応を抑えるのに活躍しています。この優れた免疫抑制作用を外用薬にしたのが、タクロリムス外用薬、つまりプロトピック軟膏なのです。

和尚:どのように使うのですか?

院長:アトピー性皮膚炎の顔にできる湿疹に使います。顔はステロイドの副作用がでやすい部分なので、あまり強力なステロイド外用薬を塗ることはできないのです。そこでこの薬の出番なのです。

和尚:それで、効くのですか?

院長:ステロイドの外用薬はレベル1~5の5段階の強さがあり、作用も副作用もこの段階の通りです。通常、顔にはレベル4以下のステロイドしか副作用のことを考えて使用しません。しかし、プロトピック軟膏はレベル3程度の炎症を抑える作用がありますが、ステロイドのような皮膚萎縮等の副作用はありません。

和尚:ここまで聞くといいことずくめのようで気持ち悪いのですが、薬なので副作用もありますよね?

院長:その通りです。まずは、刺激感が挙げられます。個人差がかなりありますが、ほてりやヒリヒリした感じを塗った方は言われます。

和尚:顔がほてるのは少しつらいですね。

院長:あと、マウスの実験ですが、この軟膏を塗った後に紫外線を照射するとマウスにリンパ腫という悪性腫瘍が出来た報告があります。

和尚:悪性腫瘍と聞くとヤバい響きがあるのですが・・・。

院長:この薬も日本で使用されるようになって20年近くがたち、多数の患者さんが使用されていますが、マウスのような報告はまだありません。ヒトとマウスでは皮膚はかなり異なるのです。ですが、この薬を塗った後で紫外線にあたるようなこと、たとえば、日光浴や日焼けサロンはやめた方がよいでしょう。

和尚:そのように聞くと安心ですね。作用副作用も含めてオープンになっている方が、正体の分からない薬より安心ですね。

外用薬以外の治療について

和尚:さて、院長の専門の塗り薬の話なので、相当熱が入っていましたが、塗り薬以外の治療はどうなのでしょうか?

院長:かゆみの強い患者さんには抗アレルギー薬といってかゆみを抑える薬を内服してもらうことが多いです。

和尚:かゆいのはつらいですからね。私も座禅中に指を蚊に刺されて、かゆみのため瞑想を邪魔されたことがあります。

院長:かゆみのため座禅などの日常生活に支障がでることも、もちろん問題なのですが、かゆいところを掻いてしまうことも問題なのです。

和尚:かゆければ掻くというのは自然の摂理のように思われますが・・・。

院長:かゆい皮疹部分をかきむしると、そのときは少し楽かもしれませんが、皮疹はどんどん増悪してくるのです。ですので、かゆければ掻くというのはやめておかなければならないのですが、和尚が「自然の摂理」というくらい、自らの意志では難しいことなのです。だから、かゆみを抑える薬を内服してもらうのです。

和尚:掻くことでさらに症状が悪化してしまうのですね。

院長:そうです。これを「itch-scracth」サイクルと言っています。そこでこの悪循環を断ち切るためにこうアレルギー薬の助けを借りるわけです。